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オタクの嫁と妹はいつの間にか増えているから気を付けろ!
憎い奴を、自分の手を汚すこともなく、合法的に、
いとも簡単に消し去ることができるとしたら。
そんな都合の良い噂を耳にした。
某サイトで憎い奴の名前を入力するだけで、
妖艶な美少女が地獄への招待状を届けてくれるらしい。
まさにインターネット全盛の現代らしい都合の良い都市伝説だ。
あの憎い奴さえ消えてくれたら自分の人生は好転するだなんて、
何とも幼稚な発想ではないか。
などと鼻で笑ってはいたものの、
しかしいざそのチャンスが自分に訪れたらどうするだろうか…。
そんな馬鹿げたことなどありえるはずもないと思い込んでいたものだから、
誰の名前をそこに入力するべきか、なんて考えたこともなかった。
ところが、連日の徹夜続きで俺はふと魔がさしたのかもしれない。
その日も深夜まで会社に一人で残っていた。
ちょうど日付が変わる頃だった。
一瞬、パソコンの画面の中で炎が燃え上がったかと思うと、
直後予期せぬページが表示された。
その画面は、無言で俺に名前の入力を促していた。
地獄に葬り去りたい憎い奴の名前を。
まて。しかし俺にそんな奴などいるのか。
自分が地獄に落ちることを承知の上で、なおも消し去りたいほどの憎い奴が。
考えても考えても、そんな奴の顔なんて浮かんでくるはずもなかった。
だが、どうしたことだろうか。
俺の手が無意識のうちにかたかたとキーボードをタイプしちまいやがった。
「大道寺 藤隆」
こいつがいなくなったら…
俺は幸せになれるのだろうか?
俺の右手はなれると判断したらしい。
「送信」をクリックした。
「来たよ。呼んだでしょ?」
俺は慌てて振り向いた。
カチッと押し込んだマウスのボタンから指を放した瞬間、その声が聞こえた。
俺しかいないはずの深夜の会社。
しかしそこには確かにありえない奴が立っていた。
俺を残して定時に帰っちまった奴は、
今頃アニメタイムのはずだと思ったのだが…。
「大道寺さん!」
少女が現れるものだとばかり思っていたのだけれど、
噂とはあてにならないものだ。
「誰の名前を書き込んだの?」
「いやっ!これは何でもないですよ!!
ちょっと、気分転換にエロサイトを見ようと思っただけですよ」
「そういうことは会社でしないほうがいいよ。
どこで誰が見ているかわからないしね。
暗号化されていない通信はしっかり記録されてるかもよ。
書いた名前、とかさ」
まさか、これは大道寺さんの罠だったのか!?
そんな予感が頭をよぎり、俺は後悔した。
俺が入力した名前がしっかり記録されているとでもいうのか!?
「人を呪わば穴二つ、だっけ?
実は穴は一つしかないのかもしれないよ。
君が落ちる穴が一つ…」
俺は破滅を覚悟した。
きっと明日社長に呼び出されて、
「ちみ、明日からもう来なくていいよ」
とか言われるに違いない、と。
しかし、幸いにしてそれは俺の夢だったらしい。
はっと気づけば、机に頭を押し付けて寝てしまっていた。
寝不足も度が過ぎると意識を失うように突然眠ってしまうらしい。
ほっと一安心して額の汗を拭った俺の手に、
大道寺さんのフィギュアが握られていた…。
なぜ俺はこんなものを抱いていたんだ??
普段は俺の後ろの席にある大道寺さんのパソコンの上に置いてあるはずのフィギュアだった。
いつもはピンク色のセーラー服を着ていた気がするのだが、
どういうわけか今はそれが脱ぎ捨てられている。
まさか、俺が脱がしたとでもいうのか!?
背筋が凍り付くほどにおぞましい。
疲労しきった脳が有害な情報に暴露され続けたせいで、
俺もついに洗脳されてロリコンになり果てたんじゃないかと恐ろしくなった。
ご丁寧に、フィギュアには赤いリボンが巻き付けてあった。
下着まで剥ぎ取られた少女が、
その小さな面積のリボンで必死に大切な部分を隠すかのように、
体中に巻きつけられていて、全裸よりも煽情的だ。
この赤いリボンを解けば…
俺はどうなる?
俺は幸せになれるのか?
奴は、奴は地獄に流されるのか?
解こうか、解いてみようか。
俺はそっとリボンの端に指をかけた。
緊張していたのだろうか、
ゴクリと唾を飲み込む。
そして指に力をかけようとしたとき、
はっと気がついた。
この赤いリボンを解いたら俺は変態になり下がってしまう!
カメラだ!どこかにカメラが隠してあるに違いない。
はぁはぁしながら、半裸のロリフィギュアのリボンを解いている俺の映像、
そんなの誰が見たって変態じゃぁないか!
これこそ、奴の思惑だったのか!
その手にはのるものか!
俺は大道寺さんの机の上にフィギュアを戻すと、会社を後にした。
寝よう。とりあえず寝よう。
今日はもう寝よう。きっと疲れているんだ。
しかし、どういうわけだか、翌朝会社に行くと大道寺さんに怒られた。
「ねぇ、ちょっと、沢村くん。これは一体どういうこと?
どうして僕の灯たんが制服脱がされて、
しかもリボンまで巻きつけられるという辱めを受けているわけ!?
これは僕に対する嫌がらせ?ねぇ、嫌がらせ?
君は僕のいないところで僕の妹になんて事をしてくれるんだ!
まだ僕以外の男を知らない十六歳の純粋な少女だというのに…。
恥を知れ!外道め!!」
などと罵倒されてしまったものだから、
あぁ、やっぱり赤い糸を解いてしまいたいものだと心底思ったさ。
しかし、この大道寺さんの様子から察するに、
大道寺さんは自分の可愛い妹にこんな鬼畜な真似はしないということか。
だとすると、昨夜俺にフィギュアを抱かせたのは一体…。
いとも簡単に消し去ることができるとしたら。
そんな都合の良い噂を耳にした。
某サイトで憎い奴の名前を入力するだけで、
妖艶な美少女が地獄への招待状を届けてくれるらしい。
まさにインターネット全盛の現代らしい都合の良い都市伝説だ。
あの憎い奴さえ消えてくれたら自分の人生は好転するだなんて、
何とも幼稚な発想ではないか。
などと鼻で笑ってはいたものの、
しかしいざそのチャンスが自分に訪れたらどうするだろうか…。
そんな馬鹿げたことなどありえるはずもないと思い込んでいたものだから、
誰の名前をそこに入力するべきか、なんて考えたこともなかった。
ところが、連日の徹夜続きで俺はふと魔がさしたのかもしれない。
その日も深夜まで会社に一人で残っていた。
ちょうど日付が変わる頃だった。
一瞬、パソコンの画面の中で炎が燃え上がったかと思うと、
直後予期せぬページが表示された。
その画面は、無言で俺に名前の入力を促していた。
地獄に葬り去りたい憎い奴の名前を。
まて。しかし俺にそんな奴などいるのか。
自分が地獄に落ちることを承知の上で、なおも消し去りたいほどの憎い奴が。
考えても考えても、そんな奴の顔なんて浮かんでくるはずもなかった。
だが、どうしたことだろうか。
俺の手が無意識のうちにかたかたとキーボードをタイプしちまいやがった。
「大道寺 藤隆」
こいつがいなくなったら…
俺は幸せになれるのだろうか?
俺の右手はなれると判断したらしい。
「送信」をクリックした。
「来たよ。呼んだでしょ?」
俺は慌てて振り向いた。
カチッと押し込んだマウスのボタンから指を放した瞬間、その声が聞こえた。
俺しかいないはずの深夜の会社。
しかしそこには確かにありえない奴が立っていた。
俺を残して定時に帰っちまった奴は、
今頃アニメタイムのはずだと思ったのだが…。
「大道寺さん!」
少女が現れるものだとばかり思っていたのだけれど、
噂とはあてにならないものだ。
「誰の名前を書き込んだの?」
「いやっ!これは何でもないですよ!!
ちょっと、気分転換にエロサイトを見ようと思っただけですよ」
「そういうことは会社でしないほうがいいよ。
どこで誰が見ているかわからないしね。
暗号化されていない通信はしっかり記録されてるかもよ。
書いた名前、とかさ」
まさか、これは大道寺さんの罠だったのか!?
そんな予感が頭をよぎり、俺は後悔した。
俺が入力した名前がしっかり記録されているとでもいうのか!?
「人を呪わば穴二つ、だっけ?
実は穴は一つしかないのかもしれないよ。
君が落ちる穴が一つ…」
俺は破滅を覚悟した。
きっと明日社長に呼び出されて、
「ちみ、明日からもう来なくていいよ」
とか言われるに違いない、と。
しかし、幸いにしてそれは俺の夢だったらしい。
はっと気づけば、机に頭を押し付けて寝てしまっていた。
寝不足も度が過ぎると意識を失うように突然眠ってしまうらしい。
ほっと一安心して額の汗を拭った俺の手に、
大道寺さんのフィギュアが握られていた…。
なぜ俺はこんなものを抱いていたんだ??
普段は俺の後ろの席にある大道寺さんのパソコンの上に置いてあるはずのフィギュアだった。
いつもはピンク色のセーラー服を着ていた気がするのだが、
どういうわけか今はそれが脱ぎ捨てられている。
まさか、俺が脱がしたとでもいうのか!?
背筋が凍り付くほどにおぞましい。
疲労しきった脳が有害な情報に暴露され続けたせいで、
俺もついに洗脳されてロリコンになり果てたんじゃないかと恐ろしくなった。
ご丁寧に、フィギュアには赤いリボンが巻き付けてあった。
下着まで剥ぎ取られた少女が、
その小さな面積のリボンで必死に大切な部分を隠すかのように、
体中に巻きつけられていて、全裸よりも煽情的だ。
この赤いリボンを解けば…
俺はどうなる?
俺は幸せになれるのか?
奴は、奴は地獄に流されるのか?
解こうか、解いてみようか。
俺はそっとリボンの端に指をかけた。
緊張していたのだろうか、
ゴクリと唾を飲み込む。
そして指に力をかけようとしたとき、
はっと気がついた。
この赤いリボンを解いたら俺は変態になり下がってしまう!
カメラだ!どこかにカメラが隠してあるに違いない。
はぁはぁしながら、半裸のロリフィギュアのリボンを解いている俺の映像、
そんなの誰が見たって変態じゃぁないか!
これこそ、奴の思惑だったのか!
その手にはのるものか!
俺は大道寺さんの机の上にフィギュアを戻すと、会社を後にした。
寝よう。とりあえず寝よう。
今日はもう寝よう。きっと疲れているんだ。
しかし、どういうわけだか、翌朝会社に行くと大道寺さんに怒られた。
「ねぇ、ちょっと、沢村くん。これは一体どういうこと?
どうして僕の灯たんが制服脱がされて、
しかもリボンまで巻きつけられるという辱めを受けているわけ!?
これは僕に対する嫌がらせ?ねぇ、嫌がらせ?
君は僕のいないところで僕の妹になんて事をしてくれるんだ!
まだ僕以外の男を知らない十六歳の純粋な少女だというのに…。
恥を知れ!外道め!!」
などと罵倒されてしまったものだから、
あぁ、やっぱり赤い糸を解いてしまいたいものだと心底思ったさ。
しかし、この大道寺さんの様子から察するに、
大道寺さんは自分の可愛い妹にこんな鬼畜な真似はしないということか。
だとすると、昨夜俺にフィギュアを抱かせたのは一体…。
願わくば、世界中の女の子のお兄ちゃんになりたい
「お兄様!!」
そんな声が駅の構内に響いた。
通勤ラッシュ時と比べればましとは言うものの、
それでも毎日数十万人の人が利用するだけあって多くの人で溢れていた。
学生の帰宅時間と重なったせいも少しはあるかもしれない。
そんな駅の騒音をものともしない少女の声が響いた。
多くの人が歩くスピードを緩めて、一瞬振り向いていた。
俺も例に漏れず、足を止めて、ついその声の主を探してしまった。
そりゃそうだろう?こんな人混みの中で叫ぶなんてさ。
しかも「お兄様」だ。時代錯誤も甚だしいではないか。
ほどなく、十数メートル後方で立ち止まり、
こちらを見ている少女の姿を見つけた。
その子が着ていたのは、
東大や京大も夢ではないほど偏差値が高いことで有名な私立の女子高校の制服だった。
あの子が叫んだのだろうか。
でも、そうだとすると、
あの小柄な体のどこからそんな声が出たのかと疑問に思わずにはいられなかった。
そうこう考えているうちに、少女がこちらに近づいてきた。
誰だ!?どこにいるんだ!!そのお兄様とやらは!
俺はあたりをきょろきょろと見回してみたが、
ついにそれらしき人は見当たらなかった。
だが、ふと隣を見てみると、同じく彼女の方を向いて立ち止まっている奴がいるではないか。
他ならぬ大道寺さんだ。
まさか!
「ごきげんよう、小百合さん」
俺の予感は当たったようだ。
案の上、大道寺さんが声をかけた。
「ごきげんよう、お兄様」
目の前までやってきた少女は、改まって挨拶をした。
「タイが曲がっていますわ、お兄様」
言いながら、少女は大道寺さんの襟元に手を伸ばし、
曲がっていたネクタイを直した。
本当は朝から俺も気づいていたのだけれど、
もう面倒臭いから指摘もしなかったのだ。
どうせ「出張なんて面倒臭いな〜」とか思いながら適当にスーツを着た結果なんだろう。
もしも、これが出かける夫と見送る妻によって、
朝の玄関で繰り広げられた光景なら全く不自然なところはないだろう。
しかしだ。
多くの人が行き交う広い駅の通路の真ん中でやるんだから人目を集めないわけがない。
しかも、有名私立女子高校の制服を身に纏ったあどけない少女が、
サラリーマンのネクタイを直している光景なんて、そうそうお目にかかれるものじゃない。
通り過ぎざまに、極めて訝しげな表情でじろじろと見ていきやがるおばさん共。
羨ましそうにちらちら見ていやがるくたびれたおじさん共。
目立つったらありゃしない!
「こ、ここにいると通行の邪魔になりますから、端に行きましょう」
そうして人目の着かないところへ二人を連れていくつもりだった。
が、どういうわけか大道寺さんは近くの喫茶店に入ってしまった。
「あの…会社に戻らなくていいんですか?」
「戻るよ、定時までにはね」
そう言われては、俺も一人でまじめに帰るのがばかばかしくなるってものだ。
それに、気になるじゃないか。
示し合わせたように「ごきげんよう」と挨拶する二人はどういう関係なんだ?
「ところで、この子を紹介してもらってもいいですか?」
「うん。小百合ちゃんだよ」
そんなことじゃねぇんだよぉ!!
それはさっき聞いた!
と叫びたくなった。
この際名前なんてどうでもいいんだ。
「妹さん…ですか?」
「お兄様」と呼んでいたのだから、
普通に考えればそうなのだろうけれど…。
そもそも、大道寺さんの妹とは会ったことがあるけれど、
こんなに素直そうな子ではなかった。
あの殺意すら覚える程の生意気で憎たらしい顔を忘れるはずがない。
「家の美奈のお姉様だよ」
美奈、その名を聞いただけでまた怒りがこみ上げてきそうだ。
「あれ?でも妹さんって一年生でしたよね?じゃあ小百合さんは二年生ですか?」
俺ははっと気づいた。
なんということだ!?
まるで血の気の引く音が聞こえそうな程だった。
お姉様、と聞いただけで俺はその事情を理解してしまっていた!
なんということだ!!
大道寺さんの発する電波な言動によって、
いつの間にか俺の脳は改竄され、異次元の知識を植え込まれたらしい。
俺は大道寺さんに近づいてしまっているとでもいうのか!?
なんと恐ろしいことだ!
気がついたら徹夜で有明に並んでたりしないだろうなぁ、俺…。
「いいえ、私は美奈ちゃんと同級生ですよ。
でも美奈ちゃんは可愛くて、妹ぉって感じがするんですよ」
「そう言えば、いつだったか美奈が小百合ちゃんにもらったんだって、
嬉しそうに数珠なんて見せてくれたよ。
仏教系の学校はロザリオの代わりに数珠をあげたりするのかな??」
「あはは〜」
小百合ちゃんが冗談っぽく笑った。
「実はその数珠、学校でもらったんですよ。
でも私数珠なんていらないや〜って思って美奈ちゃんにあげちゃったんですよ〜。
『今日から私の妹になりなさい』って言って渡したんですけれど、
美奈ちゃんは全然理解してくれませんでしたよ。
お兄様、美奈ちゃんの躾がなってないんじゃありませんか?」
「ごめんね、家の美奈は常識を知らないところがあるから…。
沢村くんでさえ知っているっていうのに。ね?」
「ね?」と突然俺に同意を求められても困る。
俺はそんなこと知らないんだ!そうだ、知っているはずがないんだ!!
俺は普通なんだから!!
「い、いや、俺はそんなこと知らないですよ。
今時の女子校で姉妹の契を結ぶのが流行ってるだなんて、
知ってるわけないじゃないですか。初耳ですよ!」
結局、大道寺さんはそこで小百合ちゃんにケーキセットを御馳走した。
可愛い女の子には何かをご馳走しないと気が済まない性分なのだろうか。
「接待って楽しいでしょ?」
もらった領収書をひらひらさせながら大道寺さんが言った。
どうやらこれは経費で落とす気なんだな。
とりあえず、交際費とは言っても、
援助と接待は全く異質なものであるということを早く大道寺さんに教えた方が良さそうだ。
何か致命的な間違いが起こらないうちに。
でも、その役目を果たすのは俺じゃないことだけは確かだ。
どうせ俺の言うことなんて聞きやしないんだから。
「大道寺さんは、妹さんの友達にはいつもあんな風に接してるんですか?」
会社へ戻る電車の中で、俺は聞いてみた。
「そうだよ〜。だって妹が増えたみたいで嬉しいじゃない?」
「そんなものですかね〜」
俺の兄弟は年が近いせいだろうか。
兄弟とは最も身近にいる敵だ、としか思えない。
大道寺さんの妹の憎たらしさと比べれば足元にも及ばないが、
やはりにくたらしい存在であることに変わりはない。
「I wish I could be a brother to all the girls all over the world.」
「あの…それはどういう意味ですか?」
唐突に何かの主張をされても困る。
しかも英語で。
まぁ理解できなくても、ろくでもない主張をしていやがるんだろうなぁ、
ということくらいはわかるさ。
「願わくば、世界中の女の子のお兄ちゃんになりたい。と思わないかい?」
俺は沈黙をもって答えた。
なぜって、そんないかれたことを電車内で主張するような輩と、
関係者だと思われたくないじゃないか?
「男のロマンだよ。まぁ世界が無理なら日本中でもいいんだけど」
それはオタクのロマンの間違いですから!!
だが、世の中美少女と呼ばれる人たちよりも、
そうでない子の方が多数を占めると思うのだが、
それでも全ての妹を等しくその大きな愛で包み込んであげるのだろうか?
「声が可愛いとか、鴬のように雅びな声をあげるとか、
猫耳が似合うとか、海星を彫るのが上手いとか、
魅力は人それぞれだと思うからね」
それから一瞬大道寺さんは何かを考えてから言葉を続けた。
「まぁ、幸いにして日本は最先端の医療技術を結集した美容整形が盛んだから」
「あなた最悪です!!」
俺は思わず叫んでしまった。
何をまじめに考え込んでいやがるのかと思えば、
出した結論がそれかよ!!
あえて言おう、貴様はカスであると!
そんな声が駅の構内に響いた。
通勤ラッシュ時と比べればましとは言うものの、
それでも毎日数十万人の人が利用するだけあって多くの人で溢れていた。
学生の帰宅時間と重なったせいも少しはあるかもしれない。
そんな駅の騒音をものともしない少女の声が響いた。
多くの人が歩くスピードを緩めて、一瞬振り向いていた。
俺も例に漏れず、足を止めて、ついその声の主を探してしまった。
そりゃそうだろう?こんな人混みの中で叫ぶなんてさ。
しかも「お兄様」だ。時代錯誤も甚だしいではないか。
ほどなく、十数メートル後方で立ち止まり、
こちらを見ている少女の姿を見つけた。
その子が着ていたのは、
東大や京大も夢ではないほど偏差値が高いことで有名な私立の女子高校の制服だった。
あの子が叫んだのだろうか。
でも、そうだとすると、
あの小柄な体のどこからそんな声が出たのかと疑問に思わずにはいられなかった。
そうこう考えているうちに、少女がこちらに近づいてきた。
誰だ!?どこにいるんだ!!そのお兄様とやらは!
俺はあたりをきょろきょろと見回してみたが、
ついにそれらしき人は見当たらなかった。
だが、ふと隣を見てみると、同じく彼女の方を向いて立ち止まっている奴がいるではないか。
他ならぬ大道寺さんだ。
まさか!
「ごきげんよう、小百合さん」
俺の予感は当たったようだ。
案の上、大道寺さんが声をかけた。
「ごきげんよう、お兄様」
目の前までやってきた少女は、改まって挨拶をした。
「タイが曲がっていますわ、お兄様」
言いながら、少女は大道寺さんの襟元に手を伸ばし、
曲がっていたネクタイを直した。
本当は朝から俺も気づいていたのだけれど、
もう面倒臭いから指摘もしなかったのだ。
どうせ「出張なんて面倒臭いな〜」とか思いながら適当にスーツを着た結果なんだろう。
もしも、これが出かける夫と見送る妻によって、
朝の玄関で繰り広げられた光景なら全く不自然なところはないだろう。
しかしだ。
多くの人が行き交う広い駅の通路の真ん中でやるんだから人目を集めないわけがない。
しかも、有名私立女子高校の制服を身に纏ったあどけない少女が、
サラリーマンのネクタイを直している光景なんて、そうそうお目にかかれるものじゃない。
通り過ぎざまに、極めて訝しげな表情でじろじろと見ていきやがるおばさん共。
羨ましそうにちらちら見ていやがるくたびれたおじさん共。
目立つったらありゃしない!
「こ、ここにいると通行の邪魔になりますから、端に行きましょう」
そうして人目の着かないところへ二人を連れていくつもりだった。
が、どういうわけか大道寺さんは近くの喫茶店に入ってしまった。
「あの…会社に戻らなくていいんですか?」
「戻るよ、定時までにはね」
そう言われては、俺も一人でまじめに帰るのがばかばかしくなるってものだ。
それに、気になるじゃないか。
示し合わせたように「ごきげんよう」と挨拶する二人はどういう関係なんだ?
「ところで、この子を紹介してもらってもいいですか?」
「うん。小百合ちゃんだよ」
そんなことじゃねぇんだよぉ!!
それはさっき聞いた!
と叫びたくなった。
この際名前なんてどうでもいいんだ。
「妹さん…ですか?」
「お兄様」と呼んでいたのだから、
普通に考えればそうなのだろうけれど…。
そもそも、大道寺さんの妹とは会ったことがあるけれど、
こんなに素直そうな子ではなかった。
あの殺意すら覚える程の生意気で憎たらしい顔を忘れるはずがない。
「家の美奈のお姉様だよ」
美奈、その名を聞いただけでまた怒りがこみ上げてきそうだ。
「あれ?でも妹さんって一年生でしたよね?じゃあ小百合さんは二年生ですか?」
俺ははっと気づいた。
なんということだ!?
まるで血の気の引く音が聞こえそうな程だった。
お姉様、と聞いただけで俺はその事情を理解してしまっていた!
なんということだ!!
大道寺さんの発する電波な言動によって、
いつの間にか俺の脳は改竄され、異次元の知識を植え込まれたらしい。
俺は大道寺さんに近づいてしまっているとでもいうのか!?
なんと恐ろしいことだ!
気がついたら徹夜で有明に並んでたりしないだろうなぁ、俺…。
「いいえ、私は美奈ちゃんと同級生ですよ。
でも美奈ちゃんは可愛くて、妹ぉって感じがするんですよ」
「そう言えば、いつだったか美奈が小百合ちゃんにもらったんだって、
嬉しそうに数珠なんて見せてくれたよ。
仏教系の学校はロザリオの代わりに数珠をあげたりするのかな??」
「あはは〜」
小百合ちゃんが冗談っぽく笑った。
「実はその数珠、学校でもらったんですよ。
でも私数珠なんていらないや〜って思って美奈ちゃんにあげちゃったんですよ〜。
『今日から私の妹になりなさい』って言って渡したんですけれど、
美奈ちゃんは全然理解してくれませんでしたよ。
お兄様、美奈ちゃんの躾がなってないんじゃありませんか?」
「ごめんね、家の美奈は常識を知らないところがあるから…。
沢村くんでさえ知っているっていうのに。ね?」
「ね?」と突然俺に同意を求められても困る。
俺はそんなこと知らないんだ!そうだ、知っているはずがないんだ!!
俺は普通なんだから!!
「い、いや、俺はそんなこと知らないですよ。
今時の女子校で姉妹の契を結ぶのが流行ってるだなんて、
知ってるわけないじゃないですか。初耳ですよ!」
結局、大道寺さんはそこで小百合ちゃんにケーキセットを御馳走した。
可愛い女の子には何かをご馳走しないと気が済まない性分なのだろうか。
「接待って楽しいでしょ?」
もらった領収書をひらひらさせながら大道寺さんが言った。
どうやらこれは経費で落とす気なんだな。
とりあえず、交際費とは言っても、
援助と接待は全く異質なものであるということを早く大道寺さんに教えた方が良さそうだ。
何か致命的な間違いが起こらないうちに。
でも、その役目を果たすのは俺じゃないことだけは確かだ。
どうせ俺の言うことなんて聞きやしないんだから。
「大道寺さんは、妹さんの友達にはいつもあんな風に接してるんですか?」
会社へ戻る電車の中で、俺は聞いてみた。
「そうだよ〜。だって妹が増えたみたいで嬉しいじゃない?」
「そんなものですかね〜」
俺の兄弟は年が近いせいだろうか。
兄弟とは最も身近にいる敵だ、としか思えない。
大道寺さんの妹の憎たらしさと比べれば足元にも及ばないが、
やはりにくたらしい存在であることに変わりはない。
「I wish I could be a brother to all the girls all over the world.」
「あの…それはどういう意味ですか?」
唐突に何かの主張をされても困る。
しかも英語で。
まぁ理解できなくても、ろくでもない主張をしていやがるんだろうなぁ、
ということくらいはわかるさ。
「願わくば、世界中の女の子のお兄ちゃんになりたい。と思わないかい?」
俺は沈黙をもって答えた。
なぜって、そんないかれたことを電車内で主張するような輩と、
関係者だと思われたくないじゃないか?
「男のロマンだよ。まぁ世界が無理なら日本中でもいいんだけど」
それはオタクのロマンの間違いですから!!
だが、世の中美少女と呼ばれる人たちよりも、
そうでない子の方が多数を占めると思うのだが、
それでも全ての妹を等しくその大きな愛で包み込んであげるのだろうか?
「声が可愛いとか、鴬のように雅びな声をあげるとか、
猫耳が似合うとか、海星を彫るのが上手いとか、
魅力は人それぞれだと思うからね」
それから一瞬大道寺さんは何かを考えてから言葉を続けた。
「まぁ、幸いにして日本は最先端の医療技術を結集した美容整形が盛んだから」
「あなた最悪です!!」
俺は思わず叫んでしまった。
何をまじめに考え込んでいやがるのかと思えば、
出した結論がそれかよ!!
あえて言おう、貴様はカスであると!
メロンソーダは1日1Lまで
このお話のあらすじ。
妖精、などとメルヘンチックに言えば聞こえは良いが、
和風に言えば妖怪の一種である。
情報生命体。
そんなものの存在をまだ知らなかった人類は、
それを妖怪と呼称した。
何年前のことになるだろうか。
1万11年前よりも最近のことだろう。
地球に降下したそれは、
当時の地球に自分が存在できるような手段がなかったため、
自己保存のための冬眠についた。
人間によってコンピュータネットワークが生み出されると、
それは半覚醒状態となった。
そして人類の脳組織を利用し存在確率を高めようとした、
いところだったのだが、
彼女にはそれが叶わなかった。
当時のコンピュータネットワークは
テレホーダイタイムという限られた時間、
いわゆる大きなお友達の活動時間にのみ
限定的に構築されるものであったためだ。
残念ながら良い子のお友達の一人であった彼女が
その時間に活動することはついになかった。
数年もすれば、大きなお友達は
こぞって光ファイバーを導入し、
高速なコンピュータネットワークが
常時構築されることとなった。
そして彼女は覚醒した。
ある絵師によって彼女は姿を与えられ、
ブログ推進キャンペーンガールとなることを条件に、
巨大なインターネットサービスプロバイダーの強力な後押しを得、
彼女の存在確率は爆発的に高められた。
そして、彼女はついに2.5次元の世界にまで
存在することができるようになった。
2.5次元。 それは愚か者には見ることのできない世界。
禁止薬物を常習的に使用することで
見ることができるようになるといわれている世界。
それを見ることのできない人は妬みを込めてこう呼ぶ、
それは妄想だ!
涼宮革命以降、
情報生命体の存在は識者の間で周知のものとなったわけだ。
これは、そんな彼女が初めて2.5次元世界に姿を表したとき、
右も左も分からずに途方に暮れていた彼女を保護した
エリートサラリーマンの物語である。
とりあえず、基礎知識はこの辺のページで身に付けてください。
最近、WEBページも作りました。
-------------------------------------------
「知らない天井だ…」
病院のベッドの上で目を覚ました大道寺氏の第一声だ。
「よかった〜!!大道寺さん、気がついたんですね」
声のした方に視線を向けると、ベッドのそばの椅子に座っているココロたんの姿があった。
「なんでここにいるんだろう…?」
氏は記憶をたどろうとしたが思い出すことはできなかった。
「変だな…。
確か会社が終わって家にたどり着いたところまでは覚えているんだけど…」
思い出しただけでも理性が崩壊しそうな衝撃的な事件の記憶を
脳が無意識のうちに封印したのだろうか。
あるいは、あの時既に氏の記憶回路は機能を完全に停止していたのかもしれない。
「大道寺さん覚えてないんですか?ココロとご飯を食べていたら突然倒れたんですよ!」
「あれ…そうだったの…?」
「ココロ、心配したんですよ!!」
目をうるませながらベッドに身を乗り出したココロたんの頭を、氏は優しく撫でた。
「ごめんね、心配かけちゃって」
ほどなく、先生と、看護士さんと、警察と、氏の両親と、氏の上司と、沢村君が
入れ替わり立ち代わりやってきた。
「どうして自殺なんてしようとしたんだ!?」
「………えっ…自殺??…誰が??」
まさか自分が自殺未遂を犯した事になっているとは、氏は考えもしなかった。
「何か仕事で辛いことでもあったのか!?
まさか変なクスリに手をだしたんじゃないだろうな!!?
沢村さんが、お前が幻覚を見ているようだと証言していたぞ!!」
「…幻覚??何の事…?」
「少女が見えるとか言っていたらしいじゃないか!?
だからアニメは一日6時間までにしろとあれほど言ったじゃないか!!」
「息子さんには記憶の混乱が見られるようです。もう少しそっとしておいてあげましょう」
ということで両親は追い出された。
一方的に押し付けられる情報から推測すると、
事態は氏が知らないところで大きく膨れあがってしまっていたようだ。
まず、氏は間違いなく死にかけたようだ。
氏が意識を失った後、汚物を喉に詰まらせて呼吸が停止しているところを沢村君に発見されたらしい。
沢村君はの証言によればあの日の夜、何者かがドアを激しく叩く音がしたらしい。
ドアを開けてみると隣の氏の部屋のドアが開け放たれていることに気づき、
中の様子を伺ったとのことだった。
沢村君には見えない何か、とはもちろん慌てふためいて取り乱していたココロたんに他ならない。
そして病院に運び込まれた後3日間生死の狭間をさまよっていたということが判明した。
さらに氏が兵器級の有害物質を自室で製造し、服毒自殺を計ったということになっていたようだ。
動機は変なクスリか過剰なアニメ試聴により精神が汚染されたという説が
極めて有力になっているようだ。
しかし不思議な事に翌日には証拠となるはずの有害物質がきれいに消えていたらしい。
とりあえず、ここでココロたんの事を口にするのは自粛するべきだと判断した。
さもなければ精神病棟に強制入院させられそうな気がしたからだ。
「ココロ、お腹減っちゃいました〜」
「そう言えばココロたん、僕が寝ていた間ご飯はどうしてたの?」
「この前大道寺さんにもらったお小遣いの残りでちゃんと食べましたよ。
でも昨日メロンソーダを買ったらお金がなくなっちゃって…。
ココロもうお腹ぺこぺこです」
そう言って、椅子に座ったまま上半身だけベッドに倒れこんた。
「もうすぐご飯の時間だから僕の分食べても良いよ」
「ココロが食べちゃったら大道寺さんお腹減らないんですか?」
「うん…なぜか何かを口にするところを想像するだけで吐き気がしちゃってね…」
それから数日のうちに氏は無事に退院することができた。
「早く退院させろ!」
と氏の禁断症状が表れたことも無関係ではないはずだ。
「もう四日もアニメを見逃しているんだぞ!!早く帰らせろ!!」
などと珍しく取り乱したからだ。
久しぶりの自室に戻った氏は驚いた。
氏を苦しめた有害物質はもちろん、積みあがっていた段ボールまできれいに片付いていたからだ。
「えへへ、ココロが勝手に片付けちゃいました」
と言うことらしい。
氏はココロたんの頭を目一杯いい子いい子してあげた。
なぜって氏は掃除を異常なまでに嫌っているからだ。
年に一度以上掃除する人の事を潔癖症だと思っているくらいだ。
いい子が家にきてくれたものだ、と氏は内心喜んでいた。
その子に殺されかけたことなど記憶にないのだからしかたがない。
そして氏は台所の片隅で異様な光景を目にした。
空になったペットボトルが大量に積み上げられていたからだ。
「これ…どうしたの??」
「ココロが飲んだメロンソーダです。
でも人間界ではどうやってごみを捨てたらいいのかわからなくて…」
などとココロたんは言っていたが、氏はそんなことを聞いていたわけではない。
どうすればこれほどのメロンソーダを数日のうちに消費できるのかと不思議に思わずにはいられない。
氏が数日前にあげた一万円の大部分がメロンソーダに費されたのだろう。
きっとココロたんの体の70%はメロンソーダでできているに違いない。
少なくとも炭酸メロンナトリウムを主成分とする体液が
血液の代わりに体中を巡っているものと推測される。
とりあえずこれほどのメロンソーダを異常摂取されつづけると、
氏の給料では数日のうちの破産するおそれがあるため、
メロンソーダ管制を布く事にした。
「ココロたん、メロンソーダは1日1Lまでだよ!
最近の人間界の研究によると、メロンソーダ初摂取の低年齢化と胸の発育の停止には
因果関係があるらしいんだよ」
などとでまかせを言った。
「人類はまだ進化の途中ですね」
ココロたんはそう言った。
「お願いだからそれ以上メロンソーダを消費しないでください」
氏は素直に頭を下げることにした。
続く
参考文献
某有名な百科事典より。
http://ja.uncyclopedia.info/wiki/メロンソーダ
妖精、などとメルヘンチックに言えば聞こえは良いが、
和風に言えば妖怪の一種である。
情報生命体。
そんなものの存在をまだ知らなかった人類は、
それを妖怪と呼称した。
何年前のことになるだろうか。
1万11年前よりも最近のことだろう。
地球に降下したそれは、
当時の地球に自分が存在できるような手段がなかったため、
自己保存のための冬眠についた。
人間によってコンピュータネットワークが生み出されると、
それは半覚醒状態となった。
そして人類の脳組織を利用し存在確率を高めようとした、
いところだったのだが、
彼女にはそれが叶わなかった。
当時のコンピュータネットワークは
テレホーダイタイムという限られた時間、
いわゆる大きなお友達の活動時間にのみ
限定的に構築されるものであったためだ。
残念ながら良い子のお友達の一人であった彼女が
その時間に活動することはついになかった。
数年もすれば、大きなお友達は
こぞって光ファイバーを導入し、
高速なコンピュータネットワークが
常時構築されることとなった。
そして彼女は覚醒した。
ある絵師によって彼女は姿を与えられ、
ブログ推進キャンペーンガールとなることを条件に、
巨大なインターネットサービスプロバイダーの強力な後押しを得、
彼女の存在確率は爆発的に高められた。
そして、彼女はついに2.5次元の世界にまで
存在することができるようになった。
2.5次元。 それは愚か者には見ることのできない世界。
禁止薬物を常習的に使用することで
見ることができるようになるといわれている世界。
それを見ることのできない人は妬みを込めてこう呼ぶ、
それは妄想だ!
涼宮革命以降、
情報生命体の存在は識者の間で周知のものとなったわけだ。
これは、そんな彼女が初めて2.5次元世界に姿を表したとき、
右も左も分からずに途方に暮れていた彼女を保護した
エリートサラリーマンの物語である。
とりあえず、基礎知識はこの辺のページで身に付けてください。
最近、WEBページも作りました。
-------------------------------------------
「知らない天井だ…」
病院のベッドの上で目を覚ました大道寺氏の第一声だ。
「よかった〜!!大道寺さん、気がついたんですね」
声のした方に視線を向けると、ベッドのそばの椅子に座っているココロたんの姿があった。
「なんでここにいるんだろう…?」
氏は記憶をたどろうとしたが思い出すことはできなかった。
「変だな…。
確か会社が終わって家にたどり着いたところまでは覚えているんだけど…」
思い出しただけでも理性が崩壊しそうな衝撃的な事件の記憶を
脳が無意識のうちに封印したのだろうか。
あるいは、あの時既に氏の記憶回路は機能を完全に停止していたのかもしれない。
「大道寺さん覚えてないんですか?ココロとご飯を食べていたら突然倒れたんですよ!」
「あれ…そうだったの…?」
「ココロ、心配したんですよ!!」
目をうるませながらベッドに身を乗り出したココロたんの頭を、氏は優しく撫でた。
「ごめんね、心配かけちゃって」
ほどなく、先生と、看護士さんと、警察と、氏の両親と、氏の上司と、沢村君が
入れ替わり立ち代わりやってきた。
「どうして自殺なんてしようとしたんだ!?」
「………えっ…自殺??…誰が??」
まさか自分が自殺未遂を犯した事になっているとは、氏は考えもしなかった。
「何か仕事で辛いことでもあったのか!?
まさか変なクスリに手をだしたんじゃないだろうな!!?
沢村さんが、お前が幻覚を見ているようだと証言していたぞ!!」
「…幻覚??何の事…?」
「少女が見えるとか言っていたらしいじゃないか!?
だからアニメは一日6時間までにしろとあれほど言ったじゃないか!!」
「息子さんには記憶の混乱が見られるようです。もう少しそっとしておいてあげましょう」
ということで両親は追い出された。
一方的に押し付けられる情報から推測すると、
事態は氏が知らないところで大きく膨れあがってしまっていたようだ。
まず、氏は間違いなく死にかけたようだ。
氏が意識を失った後、汚物を喉に詰まらせて呼吸が停止しているところを沢村君に発見されたらしい。
沢村君はの証言によればあの日の夜、何者かがドアを激しく叩く音がしたらしい。
ドアを開けてみると隣の氏の部屋のドアが開け放たれていることに気づき、
中の様子を伺ったとのことだった。
沢村君には見えない何か、とはもちろん慌てふためいて取り乱していたココロたんに他ならない。
そして病院に運び込まれた後3日間生死の狭間をさまよっていたということが判明した。
さらに氏が兵器級の有害物質を自室で製造し、服毒自殺を計ったということになっていたようだ。
動機は変なクスリか過剰なアニメ試聴により精神が汚染されたという説が
極めて有力になっているようだ。
しかし不思議な事に翌日には証拠となるはずの有害物質がきれいに消えていたらしい。
とりあえず、ここでココロたんの事を口にするのは自粛するべきだと判断した。
さもなければ精神病棟に強制入院させられそうな気がしたからだ。
「ココロ、お腹減っちゃいました〜」
「そう言えばココロたん、僕が寝ていた間ご飯はどうしてたの?」
「この前大道寺さんにもらったお小遣いの残りでちゃんと食べましたよ。
でも昨日メロンソーダを買ったらお金がなくなっちゃって…。
ココロもうお腹ぺこぺこです」
そう言って、椅子に座ったまま上半身だけベッドに倒れこんた。
「もうすぐご飯の時間だから僕の分食べても良いよ」
「ココロが食べちゃったら大道寺さんお腹減らないんですか?」
「うん…なぜか何かを口にするところを想像するだけで吐き気がしちゃってね…」
それから数日のうちに氏は無事に退院することができた。
「早く退院させろ!」
と氏の禁断症状が表れたことも無関係ではないはずだ。
「もう四日もアニメを見逃しているんだぞ!!早く帰らせろ!!」
などと珍しく取り乱したからだ。
久しぶりの自室に戻った氏は驚いた。
氏を苦しめた有害物質はもちろん、積みあがっていた段ボールまできれいに片付いていたからだ。
「えへへ、ココロが勝手に片付けちゃいました」
と言うことらしい。
氏はココロたんの頭を目一杯いい子いい子してあげた。
なぜって氏は掃除を異常なまでに嫌っているからだ。
年に一度以上掃除する人の事を潔癖症だと思っているくらいだ。
いい子が家にきてくれたものだ、と氏は内心喜んでいた。
その子に殺されかけたことなど記憶にないのだからしかたがない。
そして氏は台所の片隅で異様な光景を目にした。
空になったペットボトルが大量に積み上げられていたからだ。
「これ…どうしたの??」
「ココロが飲んだメロンソーダです。
でも人間界ではどうやってごみを捨てたらいいのかわからなくて…」
などとココロたんは言っていたが、氏はそんなことを聞いていたわけではない。
どうすればこれほどのメロンソーダを数日のうちに消費できるのかと不思議に思わずにはいられない。
氏が数日前にあげた一万円の大部分がメロンソーダに費されたのだろう。
きっとココロたんの体の70%はメロンソーダでできているに違いない。
少なくとも炭酸メロンナトリウムを主成分とする体液が
血液の代わりに体中を巡っているものと推測される。
とりあえずこれほどのメロンソーダを異常摂取されつづけると、
氏の給料では数日のうちの破産するおそれがあるため、
メロンソーダ管制を布く事にした。
「ココロたん、メロンソーダは1日1Lまでだよ!
最近の人間界の研究によると、メロンソーダ初摂取の低年齢化と胸の発育の停止には
因果関係があるらしいんだよ」
などとでまかせを言った。
「人類はまだ進化の途中ですね」
ココロたんはそう言った。
「お願いだからそれ以上メロンソーダを消費しないでください」
氏は素直に頭を下げることにした。
続く
参考文献
某有名な百科事典より。
http://ja.uncyclopedia.info/wiki/メロンソーダ
空気?読めるものなら読んでみやがれ!さぁ、なんと書いてある?
体格の良いスキンヘッドのおじさんが辺りをすごむ様に睨みつけながら会議室に入ってきた。
こいつは一体どこの組の者だ!?連中は社内の揉めごとを超法規的措置で対抗する気なのか!!
そう思ってしまう程のおじさんだった。
ふんぞり返るように席についてからも一言も言葉を発しなかった。
ただ、発言している人の方をものすごい形相で睨みつけているだけだ。
俺に発言権が回ってきても思わず言葉を飲み込んでしまう程の迫力だった。
そのおじさんが相手方の部長であるとわかったのはしばらくしてからだ。
もっとも、そうとわかっても恐いものは恐い。
だって、相手方の部下だって近藤部長に睨みつけられるたびにおびえているくらいなんだ。
やっぱり恐い人なんだろうと思わずにいられなかった。
その恐い近藤部長がなんのために乗り込んできたのかというとだ、
それは自分の部下を取り返すためにだ。
三ヶ月の期間限定で大道寺さんのチームに貸し出されていた部下を取り返すために。
なぜ大道寺さんのチームに応援が来たかというと、人手不足だからだ。
大道寺さんがアニメを見るために毎日定時に帰ってしまうおかげで、
俺は毎日残業で常に過労気味だった。
その原因を大道寺さんは「リソース不足」と結論付けた。
アニメの時間を少しでも仕事に振り向けてくれるだけでいいんじゃないかという気もしたのだが、
そんな事を言うのは波平の頭頂から髪の毛をむしり取ってくるに等しい暴挙だ。
そうして俺たちのチームにやってきた遠藤さんはとても優秀な人だった。
おかげで俺の残業もすっかりなくなり、さらに余裕までできてしまう程だった。
そうなると西村部長も遠藤さんを手放すのが惜しくなるらしい。
社長に直訴し、適当なプロジェクトをでっち上げ、
正式に大道寺さんのチームに加えようとしていた。
「彼は今の仕事にとてもやりがいを感じており、移動を強く希望しています」
「前の苛酷な部署には戻りたくないと亡命を希望しています」
などという話が、本人の知らないところで進められていた。
しかし、遠藤さんの意志はまったくの正反対で、
このデカルチャーな職場環境に馴染めず、一刻も早い帰還を強く望んでいた。
「一緒にうちの部署に来ないか?」と俺に亡命を勧めてくれるほど馴染めなかったらしい。
そうして、西村部長が近藤部長に正式に返還を拒否したことから今回の騒動に発展したらしい。
会議室には遠藤さんとその部長と課長と係長と主任、
西村部長に社長、そして俺と大道寺さんが集まっていた。
遠藤さんは自分を奪い合う争いが勃発していたということをこの場で初めて知ったらしい。
つまり遠藤さんの自由意志はまったく尊重されていなかったわけだ。
全自動ゴキブリ駆除装置なるものの開発に遠藤さんが必要なのだと執拗に言い張る西村部長。
そんなプロジェクトが存在していたことを俺はたったいま知ったばかりなのに、
発案者は何故か俺の名前になっている。
それを今にも爆発しそうな形相で睨みつけている近藤部長。
俺はこの会議が始まってからずっと目のやり場に困っていた。
バンと机の上に広げられた近藤部長のノート。そして筆箱。
それがどういうわけかありえないほどに可愛いものだった。
取締役にも名を連ねるほど威厳のある近藤部長の持ち物とは到底思えないほどに。
きっと娘の筆箱と取り違えてきたんだろうな…。
それにしても緊迫した会議の場で取り出すことさえためらわれるほど可愛すぎる筆箱が、
堂々と机の上に置かれていた。
場を和ませるための冗談かと一瞬思ったが、あの表情は絶対にそんなことを考えていないはずだ。
きっと突っ込んだら月に代わってお仕置きされるに違いない!そんな筆箱だった。
おれはそれに気づいてからずっと目のやり場に困っている。
マジかよ!?と凝視したくなるのだが、見ていることがバレたら何かやばい気がする…
俺は心の中で激しく葛藤していた。
しかし、そんな重大な事実に気づいてしまったのはどうやら俺だけらしい。
他のみんなは遠藤さんに注目してしまっていた。
「あ〜、素敵な筆箱ですねー」
社長が何かを話そうとしていたときに、間の抜けた声をあげる空気の読めない男がいた。
大道寺さんだ。よりにもよって社長のお言葉を遮ったりするか!?
しかも、議題とはまったく関係のないことだ!
「へぇ〜、セーラームーンですか。好きなんですか?」
空気の読めない大道寺さんは、近藤部長の険悪な表情などお構い無しだ。
けれどもその一言で一瞬近藤部長の表情が緩んだように見えた。本当に、一瞬の事だった。
「でも僕これ嫌いなんですよね〜」
などと抜かしやがったせいで、
せっかく社長がまとめかけていた空気が一瞬にしてぶち壊しになった。
お前の好みなんてどうでもいいんだ、ばかやろー!と
社長も心の中出叫んだに違いない。けれど、如何に社長と言えど口にはできないとみえる。
ぎりぎりと悔しそうに歯軋りをする音が聞こえてきそうだ。
「君が大道寺くんか?」
部屋に入ってきてから一言も口を開かなかった近藤部長が、ついに動いた!
「そうですが、何か文句でも?」
あんた喧嘩売ってるんですか!?もうこれ以上自体をややこしくしないでください!
って言うか黙ってろ!!と心の中で精一杯叫んでみた。
近藤部長は突然立ち上がると懐に手を忍ばせた。
やばい、何かやばいものが出てくる!俺は本能的に危険を察知した。
それは黒光りする小さなデジカメだった。幸いにして鉄砲玉こそ飛び出さなかったものの、
驚くべき写真が再生された。
それは紛れもない5人のセーラー戦士たちの姿だった。
「これは歩行者天国ですね?」
「さすが大道寺くん!」
近藤部長は突然満面の笑みを浮かべた。
それから二人は少し離れたところに椅子を移動させてカメラを見ながら密談を始めちまいやがった。
まぁちょうど良い。空気読めない奴と無駄に場を緊迫させていた奴が二人揃って外れたおかげで、
突然議論が活発になった。
「どうしてですか!?どうしてコミケにいかないんですか!!コスプレといえばコミケですよ!」
「いや、しかし俺には妻も娘もいるから…」
「何言ってるんですか!?女子供はディズニーランドで遊ばせておけばいいんですよ!
お父さん疲れちゃったから休んでるとか言って、抜け出して有明に行けばいいじゃないですか!
夕方に終わってから再入園したら怪しまれませんよ!
そのくらい考えたらわかるじゃないですか!?やる気あるんですか??」
などという叫び声が聞こえたが、俺たちは必死に平静を保って会議を続けた。
しばらくすると空気を読まない人が、会議を遮り紙切れ一枚を持って西村部長に話しかけた。
「遠藤さんは諦めましょう。代わりに来年入社予定のこの人をうちにもらうって事でどうですか?」
大道寺さんは隅で近藤部長とそんな密談をしていたらしい。
西村部長は渡された履歴書を見ながらうなった。
「まぁ新卒なので遠藤さんには到底及びませんが、伸びる子だと思います!」
と大道寺さんが強く推薦するものだから、西村部長はその言葉を信じることにしたらしい。
こうしてこの不毛な会議は唐突に終わりを向かえた。
と言うかみんなもう飽きていて、遠藤さんを帰しちゃえばいいんじゃないの?
という空気になっていたところだった。
それにしても大道寺さん、まんまと近藤部長に丸め込まれたんじゃないだろうか。
こんな役に立たなさそうな奴を押し付けられてさ…
志望動機に「うまく言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない」
などと書いていやがる奴だ。
本来、うまく言語化する能力を試しているんじゃないのか、これは??
って言うか、なんでこんな奴に内定出しちまってるんだよぉ!!
こいつは一体どこの組の者だ!?連中は社内の揉めごとを超法規的措置で対抗する気なのか!!
そう思ってしまう程のおじさんだった。
ふんぞり返るように席についてからも一言も言葉を発しなかった。
ただ、発言している人の方をものすごい形相で睨みつけているだけだ。
俺に発言権が回ってきても思わず言葉を飲み込んでしまう程の迫力だった。
そのおじさんが相手方の部長であるとわかったのはしばらくしてからだ。
もっとも、そうとわかっても恐いものは恐い。
だって、相手方の部下だって近藤部長に睨みつけられるたびにおびえているくらいなんだ。
やっぱり恐い人なんだろうと思わずにいられなかった。
その恐い近藤部長がなんのために乗り込んできたのかというとだ、
それは自分の部下を取り返すためにだ。
三ヶ月の期間限定で大道寺さんのチームに貸し出されていた部下を取り返すために。
なぜ大道寺さんのチームに応援が来たかというと、人手不足だからだ。
大道寺さんがアニメを見るために毎日定時に帰ってしまうおかげで、
俺は毎日残業で常に過労気味だった。
その原因を大道寺さんは「リソース不足」と結論付けた。
アニメの時間を少しでも仕事に振り向けてくれるだけでいいんじゃないかという気もしたのだが、
そんな事を言うのは波平の頭頂から髪の毛をむしり取ってくるに等しい暴挙だ。
そうして俺たちのチームにやってきた遠藤さんはとても優秀な人だった。
おかげで俺の残業もすっかりなくなり、さらに余裕までできてしまう程だった。
そうなると西村部長も遠藤さんを手放すのが惜しくなるらしい。
社長に直訴し、適当なプロジェクトをでっち上げ、
正式に大道寺さんのチームに加えようとしていた。
「彼は今の仕事にとてもやりがいを感じており、移動を強く希望しています」
「前の苛酷な部署には戻りたくないと亡命を希望しています」
などという話が、本人の知らないところで進められていた。
しかし、遠藤さんの意志はまったくの正反対で、
このデカルチャーな職場環境に馴染めず、一刻も早い帰還を強く望んでいた。
「一緒にうちの部署に来ないか?」と俺に亡命を勧めてくれるほど馴染めなかったらしい。
そうして、西村部長が近藤部長に正式に返還を拒否したことから今回の騒動に発展したらしい。
会議室には遠藤さんとその部長と課長と係長と主任、
西村部長に社長、そして俺と大道寺さんが集まっていた。
遠藤さんは自分を奪い合う争いが勃発していたということをこの場で初めて知ったらしい。
つまり遠藤さんの自由意志はまったく尊重されていなかったわけだ。
全自動ゴキブリ駆除装置なるものの開発に遠藤さんが必要なのだと執拗に言い張る西村部長。
そんなプロジェクトが存在していたことを俺はたったいま知ったばかりなのに、
発案者は何故か俺の名前になっている。
それを今にも爆発しそうな形相で睨みつけている近藤部長。
俺はこの会議が始まってからずっと目のやり場に困っていた。
バンと机の上に広げられた近藤部長のノート。そして筆箱。
それがどういうわけかありえないほどに可愛いものだった。
取締役にも名を連ねるほど威厳のある近藤部長の持ち物とは到底思えないほどに。
きっと娘の筆箱と取り違えてきたんだろうな…。
それにしても緊迫した会議の場で取り出すことさえためらわれるほど可愛すぎる筆箱が、
堂々と机の上に置かれていた。
場を和ませるための冗談かと一瞬思ったが、あの表情は絶対にそんなことを考えていないはずだ。
きっと突っ込んだら月に代わってお仕置きされるに違いない!そんな筆箱だった。
おれはそれに気づいてからずっと目のやり場に困っている。
マジかよ!?と凝視したくなるのだが、見ていることがバレたら何かやばい気がする…
俺は心の中で激しく葛藤していた。
しかし、そんな重大な事実に気づいてしまったのはどうやら俺だけらしい。
他のみんなは遠藤さんに注目してしまっていた。
「あ〜、素敵な筆箱ですねー」
社長が何かを話そうとしていたときに、間の抜けた声をあげる空気の読めない男がいた。
大道寺さんだ。よりにもよって社長のお言葉を遮ったりするか!?
しかも、議題とはまったく関係のないことだ!
「へぇ〜、セーラームーンですか。好きなんですか?」
空気の読めない大道寺さんは、近藤部長の険悪な表情などお構い無しだ。
けれどもその一言で一瞬近藤部長の表情が緩んだように見えた。本当に、一瞬の事だった。
「でも僕これ嫌いなんですよね〜」
などと抜かしやがったせいで、
せっかく社長がまとめかけていた空気が一瞬にしてぶち壊しになった。
お前の好みなんてどうでもいいんだ、ばかやろー!と
社長も心の中出叫んだに違いない。けれど、如何に社長と言えど口にはできないとみえる。
ぎりぎりと悔しそうに歯軋りをする音が聞こえてきそうだ。
「君が大道寺くんか?」
部屋に入ってきてから一言も口を開かなかった近藤部長が、ついに動いた!
「そうですが、何か文句でも?」
あんた喧嘩売ってるんですか!?もうこれ以上自体をややこしくしないでください!
って言うか黙ってろ!!と心の中で精一杯叫んでみた。
近藤部長は突然立ち上がると懐に手を忍ばせた。
やばい、何かやばいものが出てくる!俺は本能的に危険を察知した。
それは黒光りする小さなデジカメだった。幸いにして鉄砲玉こそ飛び出さなかったものの、
驚くべき写真が再生された。
それは紛れもない5人のセーラー戦士たちの姿だった。
「これは歩行者天国ですね?」
「さすが大道寺くん!」
近藤部長は突然満面の笑みを浮かべた。
それから二人は少し離れたところに椅子を移動させてカメラを見ながら密談を始めちまいやがった。
まぁちょうど良い。空気読めない奴と無駄に場を緊迫させていた奴が二人揃って外れたおかげで、
突然議論が活発になった。
「どうしてですか!?どうしてコミケにいかないんですか!!コスプレといえばコミケですよ!」
「いや、しかし俺には妻も娘もいるから…」
「何言ってるんですか!?女子供はディズニーランドで遊ばせておけばいいんですよ!
お父さん疲れちゃったから休んでるとか言って、抜け出して有明に行けばいいじゃないですか!
夕方に終わってから再入園したら怪しまれませんよ!
そのくらい考えたらわかるじゃないですか!?やる気あるんですか??」
などという叫び声が聞こえたが、俺たちは必死に平静を保って会議を続けた。
しばらくすると空気を読まない人が、会議を遮り紙切れ一枚を持って西村部長に話しかけた。
「遠藤さんは諦めましょう。代わりに来年入社予定のこの人をうちにもらうって事でどうですか?」
大道寺さんは隅で近藤部長とそんな密談をしていたらしい。
西村部長は渡された履歴書を見ながらうなった。
「まぁ新卒なので遠藤さんには到底及びませんが、伸びる子だと思います!」
と大道寺さんが強く推薦するものだから、西村部長はその言葉を信じることにしたらしい。
こうしてこの不毛な会議は唐突に終わりを向かえた。
と言うかみんなもう飽きていて、遠藤さんを帰しちゃえばいいんじゃないの?
という空気になっていたところだった。
それにしても大道寺さん、まんまと近藤部長に丸め込まれたんじゃないだろうか。
こんな役に立たなさそうな奴を押し付けられてさ…
志望動機に「うまく言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない」
などと書いていやがる奴だ。
本来、うまく言語化する能力を試しているんじゃないのか、これは??
って言うか、なんでこんな奴に内定出しちまってるんだよぉ!!
ココロたんの手作り料理
今回のお話も、
ブログ妖精ココロたんの二次創作。
第三話です。
私がしばらく前から気に入って使っている、
ブログパーツのココロたん。
詳しく知りたい人は、公式サイトを見てね。
ちなみに、登場人物には、
私が他に書いているオリジナルのお話の
キャラクターも出てくるんだよ。
だからそっちのお話も見てもらえると嬉しい。
まぁ、とりあえず、
何かの役に立つようなものではないと思うけれど…。
-----------------------------------------
「大道寺さん、起きてください!!」
沢村君は大道寺氏の部屋のチャイムを鳴らし、ドアを叩き、電話を鳴らして
必死で氏を起こそうとしていた。
案の定氏は寝坊していた。いつもの事だ。
日に日に遅刻への罪悪感が薄れ、今では日に日に出勤時間が遅くなっている有様だ。
転勤後初出社の今日もまたいつものように遅刻するつもりなのだろうか。
そんな氏を沢村君は起こそうと頑張っていた。
どうやら氏が遅刻すると沢村君も連体責任で遅刻にされてしまうらしい。
転勤前に上司にそう告げられたようだ。
ドアの前で格闘すること10分、当然中からドアが開けられた。
と言うよりも勝手に開いたのだ。
少なくとも沢村君にはそう見えた。
眠い目をこすりながらお気に入りのパジャマで
ドアを開けたココロたんの姿が沢村君には見えないのだから。
「入りますよ〜?」
と言いながら沢村君は中に入った。
まだ辺りに段ボールが積み上げられたままで、
パソコンだけが辛うじて開放された部屋に驚いている暇はない。
会社が用意した家具などは沢村君の部屋と同じように配置されていたから、
氏がどの部屋で寝ているのかすぐにわかった。
そしていまだに眠りつづけている氏の名前を呼んだ。
「目覚めの悪い朝だよ、全く。男に起こされるとはなんて最悪な朝なんだ…。
って言うか、なんで勝手に入り込んでるの?」
氏の目覚めの第一声がそれだった。
「おはようございます、大道寺さん」
と一足先に目覚めていたココロたんが言った。
「おはよう、ココロたん」
氏は満面の笑みを浮かべ、とたんにご機嫌になった。
「どうしたんですか、大道寺さん?寝ぼけてる場合じゃないですよ!遅刻しますよ!!」
「遅刻くらいでがたがた騒いでるようじゃ出世しないよ?
人を待たせるくらいの器じゃなきゃね」
氏の口癖だ。
「朝ご飯は何がいいかな?」
「俺は食べてきましたよ。って言うか、今はそんな場合じゃないですよ?」
「何言ってるの?君じゃないよ!ココロたんに聞いたの」
「はうっ…!ちゃんとお料理をする約束だったのに…朝ご飯作るの忘れちゃいました…。
うう……お弁当も忘れていました…。
大道寺さんがココロを早く寝かせてくれないから、ココロ寝坊しちゃったんですよ!」
「ごめんね」
と氏は謝った。
「僕はこれから会社行かなきゃいけないんだけど、ココロたん一人で大丈夫?」
「はいっ!ココロ頑張ります!………でも、早く帰ってきてくださいね」
「じゃあ残業しないで帰ってくるからね」
そして氏は一万円をココロたんに握らせた。
「これでお昼ご飯とかお菓子とか好きなの買っていいよ」
などと気前のいいことを言っていた。
「メロンソーダも買っていいですか?」
「良いよ」
「じゃあココロ、お夕飯を作って待ってます。だから絶対に早く帰ってきてくださいね!」
氏は約束通り残業をしないで帰ってきた。
と言うよりも沢村君が目を離した隙に、
就業のチャイムが時を告げる前に会社を抜け出してきたのだが。
ドアを開ける前から氏は異変を感じていた。
異臭がするのだ。その匂いはマンションに近づくにつれ、
そして自室に近づくにつれて強くなっていった。
ドアを開けると、一瞬気が遠くなる程の強烈な空気が鼻を襲った。
心なしか肌までぴりぴりと刺激を感じてしまう程だ。
「お帰りなさい。もう少しでご飯ができるから待っていてくださいね」
エプロン姿のココロたんが台所に立って何らかの化学兵器を製造しているように見えた。
何を作っているのか覗き込もうと背後から氏が近づいた。
「まだ見ちゃダメです!もうすぐだから楽しみに待っていてください!」
しかたなく氏は覗き込むのを諦めた。
ふと足元に視線を落とすと、何故か絞り出されて空になった歯磨き粉のチューブが落ちていた。
どういうわけか底が解けてなくなっていた鍋が落ちていた。
氏は身の危険を感じずにはいられなかった。
と、同時にいつかの胡散臭い占い師だか祈祷師だか陰陽師だか知れない輩の
言っていた言葉を思い出した。
『僕に怪しい影が迫っているとか言っていたな…』
氏の目にはココロたんの後ろ姿が映った。
『このままだと死ぬとか言っていたような気がするが…』
氏はなんとかして助かる方法はないものかと辺りを見回した。
しかしメロンソーダが入っていたと思しき1.5Lのペットボトルが5本くらい転がっているくらいだ。
それは昼間ココロたんが買いに行ったメロンソーダだ。
一度では運びきれないほど買ってしまったから、店と家を3度も往復したくらいだ。
そして残りのメロンソーダが冷蔵庫の90%を占めている。
氏はもうろうとする意識を辛うじて保ちながらテーブルについてその時を待っていた。
「うう……失敗しちゃいました…」
そんな事言われずとも、ココロたん以外の者はみんなとうに知っていた。
氏の前に差し出された物体はもはや口にすることが可能なものには見えなかった。
むしろ得体の知れない地球外物質というべきだろうか。
ぐつぐつと何かが煮えたぎる音と、しゅ〜という何かが解けているかの様な音と、
視界を遮る白煙が土色の焼物の様な物体から立ちのぼっていた。
「鼻をつまんだら食べられます…」
ココロたんはそう言っていた。妖精とは相当に嗅覚が効かないのだろうか。
氏はあまりの劇臭で思考が止まりかけていた。
そもそもこれを見て食べ物だと連想できる人間はいない。
そしてなかなか料理に手を付けようとしない氏を見てココロたんは悲しげな表情を浮かべた。
「ココロが大道寺さんの事を想って作ったお料理なのに…食べてくれないんですか?」
その言葉が氏を突き動かしてしまったのだろう。
「なに、料理は失敗しちゃうくらいの女の子の方が萌えるんだよ…。
それをおいしく平らげるのが男の優しさだろう?
こんな劇萌えな手料理を食わずして何がオタクか!?」
そして氏は勢い良くスプーンを突っ込み、目を閉じると口に運んだ。
ぐずぐずしているとスプーンまで解けてしまうからだ、なんて事を氏は知らない。
口に入れた刹那、本能がそれを激しく拒絶した。
けれども氏はとっさに両手で口を覆った。
今ここで吐き出すようなことがあればココロたんを悲しませる事になるかもしれない、
その一念だけが氏の体を支配していた。
けれどもそれが精一杯だった。飲み込むことなど到底不可能だ。
いかにココロたんを誤魔化し、傷つけないようにこの新兵器を処分するか、
氏はこの状況でありながらもまだそんなことを考えていた。
『まずい…このままでは…汚物と一緒に…魂的なものまで吐き出しそうだ…!』
今、氏は一歩ずつ確実に遠い世界への階段を登っている。
「…おいしいですか?」
こんな状況でありながらもココロたんは不安げな表情で氏をじっと見つめ、
間の抜けた質問をしている。
だから氏は身動きをとることができなかった。
『なんとか…なんとか…ココロたんを傷つけないように…誤魔化さねば…』
そんな氏にもようやく苦しみから開放されるときが訪れた。
氏の意識は次第に遠のき、そして苦悩から自由になれたのだ。
続く
ブログ妖精ココロたんの二次創作。
第三話です。
私がしばらく前から気に入って使っている、
ブログパーツのココロたん。
詳しく知りたい人は、公式サイトを見てね。
ちなみに、登場人物には、
私が他に書いているオリジナルのお話の
キャラクターも出てくるんだよ。
だからそっちのお話も見てもらえると嬉しい。
まぁ、とりあえず、
何かの役に立つようなものではないと思うけれど…。
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「大道寺さん、起きてください!!」
沢村君は大道寺氏の部屋のチャイムを鳴らし、ドアを叩き、電話を鳴らして
必死で氏を起こそうとしていた。
案の定氏は寝坊していた。いつもの事だ。
日に日に遅刻への罪悪感が薄れ、今では日に日に出勤時間が遅くなっている有様だ。
転勤後初出社の今日もまたいつものように遅刻するつもりなのだろうか。
そんな氏を沢村君は起こそうと頑張っていた。
どうやら氏が遅刻すると沢村君も連体責任で遅刻にされてしまうらしい。
転勤前に上司にそう告げられたようだ。
ドアの前で格闘すること10分、当然中からドアが開けられた。
と言うよりも勝手に開いたのだ。
少なくとも沢村君にはそう見えた。
眠い目をこすりながらお気に入りのパジャマで
ドアを開けたココロたんの姿が沢村君には見えないのだから。
「入りますよ〜?」
と言いながら沢村君は中に入った。
まだ辺りに段ボールが積み上げられたままで、
パソコンだけが辛うじて開放された部屋に驚いている暇はない。
会社が用意した家具などは沢村君の部屋と同じように配置されていたから、
氏がどの部屋で寝ているのかすぐにわかった。
そしていまだに眠りつづけている氏の名前を呼んだ。
「目覚めの悪い朝だよ、全く。男に起こされるとはなんて最悪な朝なんだ…。
って言うか、なんで勝手に入り込んでるの?」
氏の目覚めの第一声がそれだった。
「おはようございます、大道寺さん」
と一足先に目覚めていたココロたんが言った。
「おはよう、ココロたん」
氏は満面の笑みを浮かべ、とたんにご機嫌になった。
「どうしたんですか、大道寺さん?寝ぼけてる場合じゃないですよ!遅刻しますよ!!」
「遅刻くらいでがたがた騒いでるようじゃ出世しないよ?
人を待たせるくらいの器じゃなきゃね」
氏の口癖だ。
「朝ご飯は何がいいかな?」
「俺は食べてきましたよ。って言うか、今はそんな場合じゃないですよ?」
「何言ってるの?君じゃないよ!ココロたんに聞いたの」
「はうっ…!ちゃんとお料理をする約束だったのに…朝ご飯作るの忘れちゃいました…。
うう……お弁当も忘れていました…。
大道寺さんがココロを早く寝かせてくれないから、ココロ寝坊しちゃったんですよ!」
「ごめんね」
と氏は謝った。
「僕はこれから会社行かなきゃいけないんだけど、ココロたん一人で大丈夫?」
「はいっ!ココロ頑張ります!………でも、早く帰ってきてくださいね」
「じゃあ残業しないで帰ってくるからね」
そして氏は一万円をココロたんに握らせた。
「これでお昼ご飯とかお菓子とか好きなの買っていいよ」
などと気前のいいことを言っていた。
「メロンソーダも買っていいですか?」
「良いよ」
「じゃあココロ、お夕飯を作って待ってます。だから絶対に早く帰ってきてくださいね!」
氏は約束通り残業をしないで帰ってきた。
と言うよりも沢村君が目を離した隙に、
就業のチャイムが時を告げる前に会社を抜け出してきたのだが。
ドアを開ける前から氏は異変を感じていた。
異臭がするのだ。その匂いはマンションに近づくにつれ、
そして自室に近づくにつれて強くなっていった。
ドアを開けると、一瞬気が遠くなる程の強烈な空気が鼻を襲った。
心なしか肌までぴりぴりと刺激を感じてしまう程だ。
「お帰りなさい。もう少しでご飯ができるから待っていてくださいね」
エプロン姿のココロたんが台所に立って何らかの化学兵器を製造しているように見えた。
何を作っているのか覗き込もうと背後から氏が近づいた。
「まだ見ちゃダメです!もうすぐだから楽しみに待っていてください!」
しかたなく氏は覗き込むのを諦めた。
ふと足元に視線を落とすと、何故か絞り出されて空になった歯磨き粉のチューブが落ちていた。
どういうわけか底が解けてなくなっていた鍋が落ちていた。
氏は身の危険を感じずにはいられなかった。
と、同時にいつかの胡散臭い占い師だか祈祷師だか陰陽師だか知れない輩の
言っていた言葉を思い出した。
『僕に怪しい影が迫っているとか言っていたな…』
氏の目にはココロたんの後ろ姿が映った。
『このままだと死ぬとか言っていたような気がするが…』
氏はなんとかして助かる方法はないものかと辺りを見回した。
しかしメロンソーダが入っていたと思しき1.5Lのペットボトルが5本くらい転がっているくらいだ。
それは昼間ココロたんが買いに行ったメロンソーダだ。
一度では運びきれないほど買ってしまったから、店と家を3度も往復したくらいだ。
そして残りのメロンソーダが冷蔵庫の90%を占めている。
氏はもうろうとする意識を辛うじて保ちながらテーブルについてその時を待っていた。
「うう……失敗しちゃいました…」
そんな事言われずとも、ココロたん以外の者はみんなとうに知っていた。
氏の前に差し出された物体はもはや口にすることが可能なものには見えなかった。
むしろ得体の知れない地球外物質というべきだろうか。
ぐつぐつと何かが煮えたぎる音と、しゅ〜という何かが解けているかの様な音と、
視界を遮る白煙が土色の焼物の様な物体から立ちのぼっていた。
「鼻をつまんだら食べられます…」
ココロたんはそう言っていた。妖精とは相当に嗅覚が効かないのだろうか。
氏はあまりの劇臭で思考が止まりかけていた。
そもそもこれを見て食べ物だと連想できる人間はいない。
そしてなかなか料理に手を付けようとしない氏を見てココロたんは悲しげな表情を浮かべた。
「ココロが大道寺さんの事を想って作ったお料理なのに…食べてくれないんですか?」
その言葉が氏を突き動かしてしまったのだろう。
「なに、料理は失敗しちゃうくらいの女の子の方が萌えるんだよ…。
それをおいしく平らげるのが男の優しさだろう?
こんな劇萌えな手料理を食わずして何がオタクか!?」
そして氏は勢い良くスプーンを突っ込み、目を閉じると口に運んだ。
ぐずぐずしているとスプーンまで解けてしまうからだ、なんて事を氏は知らない。
口に入れた刹那、本能がそれを激しく拒絶した。
けれども氏はとっさに両手で口を覆った。
今ここで吐き出すようなことがあればココロたんを悲しませる事になるかもしれない、
その一念だけが氏の体を支配していた。
けれどもそれが精一杯だった。飲み込むことなど到底不可能だ。
いかにココロたんを誤魔化し、傷つけないようにこの新兵器を処分するか、
氏はこの状況でありながらもまだそんなことを考えていた。
『まずい…このままでは…汚物と一緒に…魂的なものまで吐き出しそうだ…!』
今、氏は一歩ずつ確実に遠い世界への階段を登っている。
「…おいしいですか?」
こんな状況でありながらもココロたんは不安げな表情で氏をじっと見つめ、
間の抜けた質問をしている。
だから氏は身動きをとることができなかった。
『なんとか…なんとか…ココロたんを傷つけないように…誤魔化さねば…』
そんな氏にもようやく苦しみから開放されるときが訪れた。
氏の意識は次第に遠のき、そして苦悩から自由になれたのだ。
続く






